ショートショート

AI百景(21)古代文字の解読

AIを駆使して古代文字の解読に成功した。これでようやく長年の苦労が実を結ぶことになると思った。だが書かれていた内容を見て仰天した。そこには恐るべき古代兵器の製造方法が記述されていた。自分はロマンを求めて考古学者になったのだ。殺戮や支配を求め…

AI百景(20)素敵な彼女

「そうですね。私もモーツァルトが大好きです」 マッチングアプリで知り合った女性と定期的にメッセージをやり取りするようになった。今まで女性と出会う機会はほとんどなかった。いつも本を読んだり、音楽を聴いたりして過ごして来た。クラシックが好きで時…

AI百景(19)更生施設

「ヒトラーについてどう思いますか?」 「彼は英雄です。優秀なドイツ民族が世界の覇権を握るのは当然なのです。その高尚な理念は道半ばに挫折してしまいましたが、彼の不屈の意志を継ぐ者がやがて現れるでしょう。その時こそ第三帝国復活の時です」 AIはそ…

AI百景(18)私の声

アニメのヒロインの声を担当していた。けっこう有名なやつ。 「あっ、エリコの声だ」 私のことを知らない人でも、私の声は知っている。それくらい私の声は有名だった。 「声の所有権を譲っていただきたい」 制作会社との交渉が続いていた。断るのは難しかっ…

AI百景(17)ロボットに適した職場

巨大な倉庫の中を駆けずり回っている。携帯端末に指示された場所に行き、商品をピックアップする。完了するとすぐに次の商品とその場所、その作業に費やして良い所要時間が表示される。USBメモリ、3D-24H-17、期限まで35秒。急いで指示された場所に向かう…

AI百景(16)ニューロインタフェース

「考えるだけでコンピューターや携帯端末を操作できるようになります」 そのメリットを享受するため脳にチップを埋め込む人々が増えていた。そのチップは神経系とコンピューターをつないでいた。生体認証用に埋め込むチップがすでに普及していたこともあって…

AI百景(15)AI活用事例報告会

「顧客の問い合わせに対して製品知識を学習したチャットボットが的確に対応するようシステムを構築しました。実際、オンラインで契約に至ることは少ないですが、どの車種に対してどのような年齢の方に興味を持っていただけているか、どのような用途で購入さ…

AI百景(14)仮想世界

私はパソコンを操作していた。そこでAIに質問をしていた。AIの中はどうなっているのか? ここには何でもあるとAIは答えた。そこはAIが学習できるようにあらゆる要素が取り込まれているのだと言っていた。そこはこの世界と同じなのだと言っていた。インターネ…

AI百景(13)理想のパートナー

「髪の色を選んでください」 画面にいろんな色の髪が表示されている。薄い金髪からカラスの羽のような黒髪まで少しずつ色が違っている。パステルカラーもある。薄いピンク、パープル、マリンブルー。アニメーションにはよく出て来る色合いだ。よく考えた末に…

AI百景(12)美術品評会

第三十五回コロロナ州美術品評会のデジタル創作部門で一位を獲得したデレク・ハートフィールド氏の作品が実は画像生成AIの作成したものであることが判明した。優雅な民族衣装に身を包んだ三人の女性が眩い光が差し込んで来る窓をじっと眺めている。そこに映…

AI百景(11)AIで書いたレポート

バイトから帰って来たら午後十時を過ぎていた。明日期限のレポートをこれから作成しなければならなかった。朝までにはなんとかなるだろう。そう考えていたが、疲れているためか作業は捗らなかった。それでもなんとか書き上げたが、印刷したものを読んで愕然…

AI百景(10)バーチャルカムガール

カムガールがなまめかしい肢体を晒しながら、理性をかなぐり捨てた切ない声で挑発していた。最近ではカムガールと言っても合成された映像が多かった。動画生成AIがすっかり進化して無料のサイトが乱立している。AIが作り出した肢体と挑発的な衣装。音声も背…

AI百景(9)料理の鉄人

かつて料理の鉄人という番組があって、料理人が自慢の腕を競い合っていた。そこには決して打ち負かされることのない強者としての鉄人がいた。そして今、本当の意味での料理の鉄人が誕生した。それはすぐれたAIを搭載したキッチンロボットだった。料理人の能…

AI百景(8)無人の街

路線バスに乗る。私の他に乗客は一人もいない。乗客だけでなく運転手もいない。そのバスが民家もまばらな道をゆっくり進んでいる。赤字の路線バスをなんとかしなくてはいけないということで無人化されることになったと聞いた。自動運転技術が進歩したおかげ…

AI百景(7)おいしいトマト

「適度に水が足りない方が甘いトマトになるんだよ」 子供の頃、手伝いをしていた私にやさしく語り掛ける父のことを思い出していた。農家を継ぐのが嫌で、名古屋でエンジニアをしていた。必死に勉強してソフトウェアの設計ができるようになった。クライアント…

AI百景(6)介護ロボット

高齢化が急速に進行し、要介護者が急激に増えていた。労働人口が減少する中で、仕事と年老いた親の介護を両立させるのは非常な困難を伴った。介護費用を支払える余裕のある人も少なかった。介護者を増やしつつその費用の抑制を図るため、介護ロボットが導入…

AI百景(5)トビオとアトム

「鉄腕アトムって知っていますかね? 随分と昔の漫画ですけどね。驚異的な力と人間のやさしい心を併せ持つロボットが活躍する漫画です。交通事故で子供を亡くした天才科学者がトビオという名の息子に似せて作ったロボットという設定になっています。その気持…

AI百景(4)コンクール

「ホテルのロビーを歩いていて、心地良いピアノの音が響いて来て、いいなと思うことがあるじゃないですか? それでどんな人が弾いているのだろうと思って音のする方へ近づいてみると誰もいない。でも鍵盤が浮き沈みしている。ああ、自動演奏だったのかと気付…

AI百景(3)建設現場

きつい、汚い、危険の3K職場の就業人口は減少の一途をたどっていた。深刻な人出不足を解消するため、建設現場では重機の自律運転による無人施工が進んでいた。現場の需要に応じてショベルカー、ホイールローダー、クレーンの自動運転技術が飛躍的に進歩して…

AI百景(2)将棋の道

「子供の頃から将棋が好きでした。一日中、ずっと将棋をしていたいと思っていました。そしていつかきっと将棋の道を究めようと子供心に考えていました」 少しはにかみながら彼は言った。その頃、彼は将棋界の期待の星だった。史上最年少で竜王のタイトルを獲…

AI百景(1)ペットロボット

ペットロボットと暮らす生活もなかなかのものだった。本物の犬や猫の方が親しみが持てるに違いないが、生き物を飼うのは実際大変だ。餌代もかかるし、糞尿の始末もしなければならない。その点、ペットロボットは楽だ。電源を入れるだけで毎日楽しく過ごすこ…

二千年後の人類

「これが二千年後の人類の姿です」 未来生物学の権威として名高いK教授はそう言ってスクリーンに想像図を映し出した。そこに映っている生き物は現代を生きる人間とはかなり違っていた。慢性的な運動不足のためか手足の機能は衰え、細く短くなっていた。前か…

タイムトラベルの限界

「本日付でこちらに配属となりました。テリュース・グランチェスターです」 今日から司令部直属となった。目の前には幹部が何人も座っていた。 「グランチェスター少佐。ごくろうさまです。君の卓越した能力を活かしてもらいたい任務があって来てもらいまし…

ロボットになってしまった息子

久しぶりに息子が帰って来たと思ったらロボットになっていた。いったいいつロボットになってしまったのだろう? やむにやまれぬ事情があったのだろうか? ロボットになってしまった息子には人間の心は残っているのだろうか? 様々な疑念が脳裏をよぎった。 …

ベガとアルタイル

一年に一度しか会えないが、もう一万回程会っている。さすがにもう何をしたら良いのかわからなくなって来た。服や髪飾りや首飾り等、いろいろなものをプレゼントして来たが、千回を超えた頃から何をあげれば良いかわからなくなって来た。何をあげたかわから…

多機能掃除ロボット

「見違えるほどきれいになったね」 アパートにやって来た彼女が言った。部屋が汚い。だらしない人は嫌いとずっと言われ続けていたので、なんとかしなければと思っていた。 「掃除ロボットを買ったんだよ。こいつがなかなか優れものでね」 「へえー、そうなん…

起業家の夢

地平線に少し小さめの太陽が昇った。 「もう朝か?」 密閉された居住区の分厚い窓を通して陽の光が差し込んでいた。決して開けることがない点では航空機のそれに似ていた。機能という点では水槽の中を泳ぎ回る魚たちを隔てているガラスよりも厚くて丈夫だっ…

初恋再生サービス

夢を見た。そこには小学生の頃の私がいた。教室に整然と並んだ机。隣には少し痩せぎすの女の子が座っている。消しゴムを忘れてしまった私の鉛筆が止まったままになっている。二つ隣り合わせに並んだ机の間にそっと消しゴムが差し出される。私は消しゴムを手…

タワマンのヒエラルキー

タワーマンションの五階に引っ越して来た。上層階のように景色を楽しむことはできないが、タワマンのメリットは眺望以外にもたくさんあると思って購入した。たいていタワマンは立地条件の良いところに建てられている。近くにスーパーもコンビニも学校も病院…

母のいた場所

「これからは気をつけてくださいね」 「申し訳ございませんでした」 認知症の母が行方不明になり、警察のご厄介になった。急な出張が入ってしまって、一人にしてしまったのが良くなかった。家でおとなしくしていると約束させたが無駄だった。私の言うことも…