AI百景(11)AIで書いたレポート

 バイトから帰って来たら午後十時を過ぎていた。明日期限のレポートをこれから作成しなければならなかった。朝までにはなんとかなるだろう。そう考えていたが、疲れているためか作業は捗らなかった。それでもなんとか書き上げたが、印刷したものを読んで愕然とした。さすがにこれはダメだろう。アイデアに沿ってデータの収集と分析をして、そこから導かれる新たな視点を実例を交えて論理的に展開する。そうしなければならないことはわかってはいるが、疲れた脳はその通りには動かなかった。時計を見ると午前二時を過ぎていた。もう手段を選んでいる場合ではない。そう考えた私はAIツールを使うことにした。最近では自然な文章を瞬時に作成できるAIツールが公開されている。一般的な大学の試験問題や課題だけでなく、MBAの試験にも合格してしまう程、すぐれているらしい。以前、試しに使ってみたが、確かに人間が書いたような文章を生成していた。ただそのことは学校側もよく知っている。

「学生はAIツールによってではなく、自身の手で課題を達成することが求められています」

大学の広報担当者がそう言っていた。でも期限に間に合わなかったら、単位はもらえない。それが積み重なると留年してしまう。仕方ないじゃないか? 遊んでいた訳じゃない。学費と生活費のためにバイトが増えてしまっている。そして私はAIツールを使った。出力されたものをそのまま使用するのはさすがにヤバいと思ったので、所々文章を変更した。それだけでもけっこう時間がかかった。レポートが出来上がった頃には、外はすっかり明るくなっていた。

 

 論文の期限が迫っていた。忙しくてまとまった時間が割けなかった。今週中になんとか目途をつけなければならなかった。だが他にもやることがいろいろあった。学生が提出したレポートの採点もしなければならなかった。たいした内容ではない。おもしろいと思えるものは一割くらいだ。あとはどうでも良い代物だった。ネットから拾って来たネタをそのまま書いて自分でやったつもりになっている連中も多い。ひどい奴になるとAIに書かせたものをそのまま提出して来る。さすがにこれは問題なので、先生方もAIが作成したものがないか十分にチェックしてくださいとお達しが来ている。やけに文法が完璧であるとか、不要な繰り返しが混ざっている場合はAIが作成した可能性が高いと聞いた。でも、そんなことまでチェックしている時間がない。私は疲れていた。論文はコンスタントに書かねばならない。講義も学生が興味を持てるよう工夫しているつもりだ。その上、レポートの採点をしなければならない。そういう訳でレポートの採点はAIにやらせることにした。これでなんとか論文の作成に集中できそうだった。

 

 AIでレポートを作成したことがバレないかずっと不安だったが、なんとか単位をもらえることができた。鋭い先生なのでとても不安だった。あるいは見抜かれているけど、温情をかけてくれたかもしれない。次からは自分の力でなんとかしなければならないと思っている。でもバイトが忙しいので、また誘惑に負けてしまうかもしれなかった。

 

 なんとか期限までに論文を仕上げることができた。レポートの採点をAIに任せてしまったことは少し後悔している。次からはちゃんと採点しようと思っている。だが准教授になるには、これからもコンスタントに論文を出して行かなければならない。この状況が続くのであれば、また採点をAIに任せてしまうかもしれなかった。