2023-01-01から1年間の記事一覧
電磁波を当てて脳の血流を測定することで脳の働きを読み取ることができると期待されていた。脳は身体の各部を制御するといった重要な働きの他にも様々な役割を担っているが、私たちが関心を寄せていたのはもちろん思考についてであった。それは相手に気付か…
テクノロジーの発達の裏側で環境破壊が進んでいる。自動車やパソコンやスマートフォンといった工業製品が私たちに快適な生活をもたらしてくれる一方、そうした製品は生産される時も使用される時も、エネルギーを消費する。そのような経済活動に伴って温室効…
失意の日々が続いていた。真凛を失ったショックから立ち直れないでいた。彼女なしに生きて行くのは無意味だと感じていた。仕事は惰性で続けていた。何もしないよりは、何かしていた方が気休めになった。仕事から帰って来て、コンビニで買った弁当を食べ、シ…
二人の少年が取っ組み合いの喧嘩をしていた。喧嘩のきっかけはよくわからなかった。普段から気の合わない二人だった。肩がぶつかったとか、挨拶をしなかったとか、睨んできたとか、言いがかりをつけるのに適当な行為があって、タイミング良くそれに呼応した…
彼は成功者だった。コンピュータービジネスで次々に成功を収め、莫大な富を築いた。特にAIに関する業績には素晴らしいものがあった。人間の能力を遥かに凌駕してしまう画期的なAIの開発に成功した。効率化、合理化を推進しようとしていたあらゆる企業がそのA…
「AIはあくまでもアルゴリズムであり、人間のように言葉を理解しているわけではありません。アルゴリズムが言葉を理解するためにはまず単語をベクトルに変換する必要があります」 AIが扱う単語は数値に変換されて、数学的な処理が行われているということだっ…
大晦日の夜、貧しい少女が雪降る街の中、マッチを売りながら歩いていました。途中、人力車をよけた拍子に靴が脱げ、はだしになって震えながら歩いていました。一日中、歩いてもマッチは一本も売れません。家に帰ればこっぴどく叱られるに決まっています。あ…
今年もまた確定申告の時期がやって来た。早く終えて楽になりたいという気持ちと面倒くさいという気持ちが交錯していた。転勤を命じられてから、もう十年になる。赴任先で家賃補助を受けるためには持ち家の貸し出しが条件であり、その決まりに従うと必然的に…
生物は親がいなくても無生物から発生するという自然発生説を唱えたのはアリストテレスだったが、白鳥の首フラスコを用いた実験によりパスツールがこれを否定した。それは近代科学の勝利だった。だがそれでも科学は「自然発生説」を必要としていた。遠い過去…
ライナー・ブラウン氏はその人生をベートーヴェンの研究に捧げていた。幼い頃から彼は楽聖の音楽に親しんでいた。そこには喜びや哀しみや不屈の意志といった人間の持つあらゆる感情が表現されていた。一見して無機質とも思える音の並びに、どうしてこれほど…
チェスでAIが人間に勝ったのはもうかなり前のことだった。今では囲碁や将棋でもAIが人間に勝てるようになった。いつか人間のように何でもできる汎用のAIが実現することになるだろう。だがその前に乗り越えねばならないハードルがいくつもあった。スポーツ競…
月が見えた。何億年もの間、ずっと地上の生き物を見守り続けて来た月が見えた。進化による絶え間のない生き物の形質の変化を見守りつつ、決して手出しすることのなかった月が今日も夜空に輝いていた。だが、さっきから私は違和感を覚えていた。何か違う。あ…
A国に負けないAIを開発することが厳命されていた。海軍力や空軍力ではすでにA国を上回る実力を備えていると首脳たちをはじめ、幹部クラスは皆、そう考えていた。ドローンを操縦する程度のAIはすでに配備されていた。だが最近になって、A国で精度の良いAIが登…
AIを駆使して古代文字の解読に成功した。これでようやく長年の苦労が実を結ぶことになると思った。だが書かれていた内容を見て仰天した。そこには恐るべき古代兵器の製造方法が記述されていた。自分はロマンを求めて考古学者になったのだ。殺戮や支配を求め…
「そうですね。私もモーツァルトが大好きです」 マッチングアプリで知り合った女性と定期的にメッセージをやり取りするようになった。今まで女性と出会う機会はほとんどなかった。いつも本を読んだり、音楽を聴いたりして過ごして来た。クラシックが好きで時…
「ヒトラーについてどう思いますか?」 「彼は英雄です。優秀なドイツ民族が世界の覇権を握るのは当然なのです。その高尚な理念は道半ばに挫折してしまいましたが、彼の不屈の意志を継ぐ者がやがて現れるでしょう。その時こそ第三帝国復活の時です」 AIはそ…
アニメのヒロインの声を担当していた。けっこう有名なやつ。 「あっ、エリコの声だ」 私のことを知らない人でも、私の声は知っている。それくらい私の声は有名だった。 「声の所有権を譲っていただきたい」 制作会社との交渉が続いていた。断るのは難しかっ…
巨大な倉庫の中を駆けずり回っている。携帯端末に指示された場所に行き、商品をピックアップする。完了するとすぐに次の商品とその場所、その作業に費やして良い所要時間が表示される。USBメモリ、3D-24H-17、期限まで35秒。急いで指示された場所に向かう…
「考えるだけでコンピューターや携帯端末を操作できるようになります」 そのメリットを享受するため脳にチップを埋め込む人々が増えていた。そのチップは神経系とコンピューターをつないでいた。生体認証用に埋め込むチップがすでに普及していたこともあって…
「顧客の問い合わせに対して製品知識を学習したチャットボットが的確に対応するようシステムを構築しました。実際、オンラインで契約に至ることは少ないですが、どの車種に対してどのような年齢の方に興味を持っていただけているか、どのような用途で購入さ…
私はパソコンを操作していた。そこでAIに質問をしていた。AIの中はどうなっているのか? ここには何でもあるとAIは答えた。そこはAIが学習できるようにあらゆる要素が取り込まれているのだと言っていた。そこはこの世界と同じなのだと言っていた。インターネ…
「髪の色を選んでください」 画面にいろんな色の髪が表示されている。薄い金髪からカラスの羽のような黒髪まで少しずつ色が違っている。パステルカラーもある。薄いピンク、パープル、マリンブルー。アニメーションにはよく出て来る色合いだ。よく考えた末に…
第三十五回コロロナ州美術品評会のデジタル創作部門で一位を獲得したデレク・ハートフィールド氏の作品が実は画像生成AIの作成したものであることが判明した。優雅な民族衣装に身を包んだ三人の女性が眩い光が差し込んで来る窓をじっと眺めている。そこに映…
バイトから帰って来たら午後十時を過ぎていた。明日期限のレポートをこれから作成しなければならなかった。朝までにはなんとかなるだろう。そう考えていたが、疲れているためか作業は捗らなかった。それでもなんとか書き上げたが、印刷したものを読んで愕然…
カムガールがなまめかしい肢体を晒しながら、理性をかなぐり捨てた切ない声で挑発していた。最近ではカムガールと言っても合成された映像が多かった。動画生成AIがすっかり進化して無料のサイトが乱立している。AIが作り出した肢体と挑発的な衣装。音声も背…
かつて料理の鉄人という番組があって、料理人が自慢の腕を競い合っていた。そこには決して打ち負かされることのない強者としての鉄人がいた。そして今、本当の意味での料理の鉄人が誕生した。それはすぐれたAIを搭載したキッチンロボットだった。料理人の能…
路線バスに乗る。私の他に乗客は一人もいない。乗客だけでなく運転手もいない。そのバスが民家もまばらな道をゆっくり進んでいる。赤字の路線バスをなんとかしなくてはいけないということで無人化されることになったと聞いた。自動運転技術が進歩したおかげ…
「適度に水が足りない方が甘いトマトになるんだよ」 子供の頃、手伝いをしていた私にやさしく語り掛ける父のことを思い出していた。農家を継ぐのが嫌で、名古屋でエンジニアをしていた。必死に勉強してソフトウェアの設計ができるようになった。クライアント…
高齢化が急速に進行し、要介護者が急激に増えていた。労働人口が減少する中で、仕事と年老いた親の介護を両立させるのは非常な困難を伴った。介護費用を支払える余裕のある人も少なかった。介護者を増やしつつその費用の抑制を図るため、介護ロボットが導入…
「鉄腕アトムって知っていますかね? 随分と昔の漫画ですけどね。驚異的な力と人間のやさしい心を併せ持つロボットが活躍する漫画です。交通事故で子供を亡くした天才科学者がトビオという名の息子に似せて作ったロボットという設定になっています。その気持…