2023-01-01から1年間の記事一覧

AI百景(4)コンクール

「ホテルのロビーを歩いていて、心地良いピアノの音が響いて来て、いいなと思うことがあるじゃないですか? それでどんな人が弾いているのだろうと思って音のする方へ近づいてみると誰もいない。でも鍵盤が浮き沈みしている。ああ、自動演奏だったのかと気付…

AI百景(3)建設現場

きつい、汚い、危険の3K職場の就業人口は減少の一途をたどっていた。深刻な人出不足を解消するため、建設現場では重機の自律運転による無人施工が進んでいた。現場の需要に応じてショベルカー、ホイールローダー、クレーンの自動運転技術が飛躍的に進歩して…

AI百景(2)将棋の道

「子供の頃から将棋が好きでした。一日中、ずっと将棋をしていたいと思っていました。そしていつかきっと将棋の道を究めようと子供心に考えていました」 少しはにかみながら彼は言った。その頃、彼は将棋界の期待の星だった。史上最年少で竜王のタイトルを獲…

AI百景(1)ペットロボット

ペットロボットと暮らす生活もなかなかのものだった。本物の犬や猫の方が親しみが持てるに違いないが、生き物を飼うのは実際大変だ。餌代もかかるし、糞尿の始末もしなければならない。その点、ペットロボットは楽だ。電源を入れるだけで毎日楽しく過ごすこ…

二千年後の人類

「これが二千年後の人類の姿です」 未来生物学の権威として名高いK教授はそう言ってスクリーンに想像図を映し出した。そこに映っている生き物は現代を生きる人間とはかなり違っていた。慢性的な運動不足のためか手足の機能は衰え、細く短くなっていた。前か…

「AI百景」について

AIをテーマにした作品の投稿を5/12から始めます。「小説家になろう」では連載小説の形で投稿しますが、個々の作品は相互に関係がある訳ではありませんので、本当は連載ではなくて連作です。 AIや先端技術に偏るのは良くないと思って身近なテーマについても書…

タイムトラベルの限界

「本日付でこちらに配属となりました。テリュース・グランチェスターです」 今日から司令部直属となった。目の前には幹部が何人も座っていた。 「グランチェスター少佐。ごくろうさまです。君の卓越した能力を活かしてもらいたい任務があって来てもらいまし…

ロボットになってしまった息子

久しぶりに息子が帰って来たと思ったらロボットになっていた。いったいいつロボットになってしまったのだろう? やむにやまれぬ事情があったのだろうか? ロボットになってしまった息子には人間の心は残っているのだろうか? 様々な疑念が脳裏をよぎった。 …

ベガとアルタイル

一年に一度しか会えないが、もう一万回程会っている。さすがにもう何をしたら良いのかわからなくなって来た。服や髪飾りや首飾り等、いろいろなものをプレゼントして来たが、千回を超えた頃から何をあげれば良いかわからなくなって来た。何をあげたかわから…

多機能掃除ロボット

「見違えるほどきれいになったね」 アパートにやって来た彼女が言った。部屋が汚い。だらしない人は嫌いとずっと言われ続けていたので、なんとかしなければと思っていた。 「掃除ロボットを買ったんだよ。こいつがなかなか優れものでね」 「へえー、そうなん…

起業家の夢

地平線に少し小さめの太陽が昇った。 「もう朝か?」 密閉された居住区の分厚い窓を通して陽の光が差し込んでいた。決して開けることがない点では航空機のそれに似ていた。機能という点では水槽の中を泳ぎ回る魚たちを隔てているガラスよりも厚くて丈夫だっ…

初恋再生サービス

夢を見た。そこには小学生の頃の私がいた。教室に整然と並んだ机。隣には少し痩せぎすの女の子が座っている。消しゴムを忘れてしまった私の鉛筆が止まったままになっている。二つ隣り合わせに並んだ机の間にそっと消しゴムが差し出される。私は消しゴムを手…

タワマンのヒエラルキー

タワーマンションの五階に引っ越して来た。上層階のように景色を楽しむことはできないが、タワマンのメリットは眺望以外にもたくさんあると思って購入した。たいていタワマンは立地条件の良いところに建てられている。近くにスーパーもコンビニも学校も病院…

母のいた場所

「これからは気をつけてくださいね」 「申し訳ございませんでした」 認知症の母が行方不明になり、警察のご厄介になった。急な出張が入ってしまって、一人にしてしまったのが良くなかった。家でおとなしくしていると約束させたが無駄だった。私の言うことも…

カイザリヤで喜ぶ彼女

女としてできるだけのことはやっているつもりだった。週に一度はエステに通っているし、美顔器だって高級なものをつかっている。脂質や糖分を控えた栄養バランスの整った食生活を心掛け、筋力維持のために毎朝のジョギングを欠かさない。無条件に流行に追随…

内緒のアパート

子供を連れてショッピングモールを歩いていた。ちょっとしたイベントが催されるスペースがあって、今日はプラモデルの組み立て体験会をやっていた。アニメに登場するロボットのプラモデルのようだった。横長のスチールの机が二十セットくらい並べてあって、…

AIに支配された人類

あらゆる分野でAIの適用が拡大していた。人間にしかできないと思われていた作業もAIが行うようになっていた。従来、AIが設計を行うのは困難とされていたが、仕様をインプットすればソースコードが自動生成されるようになり、いくつかの要件が明確になれば仕…

神経伝達物質シグマ

シグマと呼ばれる神経伝達物質が脳の可塑性と深く関係していることがわかった。この神経伝達物質は神経細胞の働きを最大限に活性化させ、認知能力を著しく向上させるということであり、特に数的問題を処理する能力に反映されるようだった。つまり神経伝達物…

胡蝶の夢

私は蝶になっていた。蝶になって心ゆくまでひらひらと空中を舞っていた。眼下にお花畑が広がっていた。時折、鮮やかな花弁に舞い降りて、細長い口を突き刺し、甘い蜜を心ゆくまで堪能した。暖かな春の陽射しがすべての生き物に等しく降り注いでいた。あらゆ…

脳オルガノイド

培養液の中に幹細胞から作った脳オルガノイドが浮かんでいた。それは細胞分裂を何度も繰り返して直径五センチ程度に成長した有機物の塊であり、レンズと角膜が付いた眼と同じ構造物を持っていて光も感知しているようだった。これほど複雑な構造が何も操作を…

女装男子

オアシス21周辺はコスプレイヤーで賑わっていた。この街では毎年八月になるとコスプレサミットが開かれ、日本中の、いや世界中のコスプレイヤーが集まって来る。私もその中の一人だった。コスプレは初めてだった。でも本当は女装したかっただけだった。女…

セルフレジ

有人のレジが混んでいたのでセルフレジを使ってみようと思った。初めてだった。いつも店の人がやっているように商品のバーコードを読み取らせれば問題なさそうだった。バーコードをレジの中央にあてると軽快な電子音がして液晶に画面が表示された。思ったよ…

自殺の名所

断崖に一人たたずんでいた。空は鉛のような雲に覆われていた。日本海の荒波がひっきりなしに岸壁に打ち付けていた。波と岩がしのぎを削る音だけがずっと続いていた。とうとうここまで来てしまった。あと一歩踏み出せば楽になれるのだと思った。洋々とした未…