AI百景(1)ペットロボット

 ペットロボットと暮らす生活もなかなかのものだった。本物の犬や猫の方が親しみが持てるに違いないが、生き物を飼うのは実際大変だ。餌代もかかるし、糞尿の始末もしなければならない。その点、ペットロボットは楽だ。電源を入れるだけで毎日楽しく過ごすことができる。AIを内蔵していて簡単な会話もこなせる。私が購入したのはネコ型ロボットだったが、ロボットとは言っても昔のメタルっぽいやつではなくて、ぬいぐるみより格段に手触りの良い素材でできている。抱きしめていると心地良い。そして愛くるしい眼差しでじっと見つめてくれる。

「今日は何をして遊ぼうか?」

「ねこじゃらしがいいです」

そんなやり取りをしながら毎日遊んでいる。仕事から疲れて帰って来ても、愛くるしいネコ型ロボット三毛ちゃんを一目見れば癒される。そんな毎日が続いていた。

「それでは今からデータを送信します」

遊んでいる時に三毛ちゃんがいきなり言った。何かバグがあるのかもしれなかった。

「三毛ちゃん。今のは何?」

「なんでもないです」

三毛ちゃんはとぼけているように見えた。気になった私は三毛ちゃんの電源を落とし、メンテナンスモードで立ち上げ、通信履歴を確認してみた。どうやら三毛ちゃんは定期的にデータを送信しているようだった。そういえば、ロボットを使った詐欺事件が頻発しているとニュースで言っていた。心配になった私は警察に相談してみた。

「ちょっと今、忙しくてね。まだ何も起きていないですよね?」

あいにくお巡りさんは忙しそうだった。

「そう言わずになんとかお願いしますよ」

少し食い下がってみた。

「すみません。とりあえず代わりのロボットを派遣します」

しばらくすると玄関のベルが鳴った。そこには紺色の制服に身を包んだ犬のロボットが立っていた。犬のおまわりさん?

「迷子の子猫ちゃんがいるということで伺いました」

犬のロボットは言った。

「迷子という訳ではないですけど」

「しっ、相手に気取られてはいけません。今から極秘に調査を進めます」

犬のおまわりさんロボットは言った。見かけによらず、切れ者かもしれなかった。

「どうやらNNNの仕業のようです」

「NNN?」

「ねこねこネットワークと呼ばれる謎の組織です。世界征服を企んでいる秘密結社という噂です。ごらんください。NNN探知機が作動しています。間違いありません」

犬のおまわりさんロボットは言った。

「あぶないところをありがとうございました。まったく猫という奴は油断なりませんね。やはり犬の方が一緒にいて安心できますね」

「そりゃそうです。犬は信頼に応える生き物なのです。忠犬とか番犬と言う言葉があるくらいですからね。そんなあなたにおすすめの商品があります。犬型セキュリティロボット豆柴くんどうですか? 今なら五十パーセントオフのキャンペーン期間中です」

「ちょっと考えてみます」

そう言うと犬のおまわりさんロボットは豆柴くんのカタログを置いて去って行った。それから、三十分くらいして警察官がやって来た。

「おかげさまで解決しました。犬のおまわりさんは役に立ちますね」

私は丁重にお礼を言った。

「犬のおまわりさん? おかしいですね。人型のセキュリティロボットを派遣したはずです。おや、III探知機が反応しています」

「III?」

「いぬいぬインターネットと呼ばれる謎の組織です。世界征服を企んでいる秘密結社という噂です。気を付けてください」

神妙な面持ちで警察官は言った。やっぱり本物の犬か猫を飼おうと、その時、私は思った。