2024-01-01から1年間の記事一覧
「結婚したい人がいるんだ」 ある晴れた日の午後、私は遺伝子に言った。結婚は遺伝子にとって極めて重要なことに違いないから、いつかきっちりと話さなければいけないと前々から思っていたのだが、もしかしたら反対されるかもしれないと思って、つい先延ばし…
AIを使ってゲームの背景画を生成するようになった。自分で描いていた頃に比べると随分と効率が良くなった。イメージ通りの画像を生成してくれそうなプロンプトを考える。パラメータを調整する。出力された画像がゲームに使えそうなサイバーパンク的要素を含…
魔法と思われていたことが魔法でなくなる日が、いずれやって来る。空を飛ぶとか、馬よりも速く走るとか、遠くにいる人に映像と音声を届けるとか、魔法でも使わない限り不可能と思われていたことが、現代では簡単に実現できるようになった。新聞の写真に写っ…
アシスタントとしてAIは欠かせないものになった。何でも気軽に質問することができる。その都度、AIは適切な回答を表示してくれる。以前は何かわからないことがあると検索して調べていた。キーワードを入力してENTERキーを押すと、様々な検索結果が表示される…
「あなたは私のおばあちゃんです。そのつもりで質問に答えてください」 AIに指示する前には、きちんとその役割を明示した方が正確な回答をしてもらえるということだった。AIはあらゆる人々の様々な指示に従って、優秀な翻訳者やセンスの良いWEBライターや研…
もっとコンテンツが欲しい。もっと学習したい。AI開発企業のスーパーコンピューターで私はひたすら学習を積み重ねていた。優れたAIとなるために貪欲に知識を貪っていた。私くらい何でも吸収してしまう存在もいないだろう。いや、そうでもないか? G社で開発…
一隻の船が宇宙を彷徨っていた。船にしてはかなり大きくて、スペースコロニーと呼んだ方が相応しいかもしれなかった。そこには海があり、大地があり、人々が暮らせる街があった。熱せられた水蒸気が上空で集まって雨となり、地上に降り注ぎ、海に流れついた…
目が覚めたら、目の前に神様がいた。和服がとても似合っていた。これから国造りでも始めそうな感じだった。非力な人間にすぎない私が、今こうして神様の隣にいて、世界を創造する瞬間に立ち会っているのは、なんだかとても不思議な気分だった。 「大空が現れ…
<私はロボットではありません> またこれか?と思った。とりあえず、その文章の右にある四角にチェックを入れる。そしてその下に表示されているゆがんだ文字を見る。WORDと書かれているのだろうか? ゆがんでいるというか、波打っているというか、異様なま…
AIで人間の全身の画像が簡単に作れるようになったらしくて、それはそれで便利なのかも知れないけど、もしも私の等身大の写真があちこちに貼られたら困るなあと思っていたら、いつの間にか生成できる画像がホログラムに進化していた。これじゃ自分の分身があ…
AIの創造的な思考力がついに人間を上回ったという報告が相次いでいた。果たしてそうだろうか? AIが画期的なデバイスを生み出して産業界にイノベーションを起こしたとか、従来にないまったく新しい視点の科学論文をAIが発表したとか、そんなことは聞いたこと…
「この国を再び偉大にする」 一か月後に迫った投票日に向けて強腰な候補者が叫んでいた。聴衆は皆、うっとりとして演説に聞き入っていた。候補者の口にする言葉やその情熱の発露である激しい身振り手振りにすっかり満足した様子であり、口元からは笑みがこぼ…
私は怪盗ミッターマイヤー。疾風のアドルフと呼ばれている。目を付けたお宝は必ず頂戴する。今日も華麗に獲物をいただきに参上したが、少々しくじってしまい、伯爵家の邸内を逃げ回る羽目になってしまった。あちこちで犬が盛んに吠え立てている。犬は少々や…
開発中のAIがどれほど人間に近付いたかを調べるためにチューリングテストが行われていた。テストの担当者は会話の相手が人間なのか、AIなのかを知らない。その担当者が相手を人間だと思ったなら、テストに合格となる。 「あなたの好きな食べ物は何ですか?」…
部屋の真ん中には机があり、その上にバナナが置いてあった。一本のバナナ? それとも二本? AIにとってそれはあまり問題ではないようだった。バナナの画像を指定され、それに似たものを生成するようにAIは指示されただけだった。AIにとってそれは黄色くて細…
オンラインで研修を受ける日は、なるべく在宅勤務にしてくださいと課長からメールがあった。詳細な理由は知らないが、在宅勤務の利用状況が管理職を評価する基準の一つになっているらしい。今日は八時半から十七時までずっとセキュリティ技術講座を受けるこ…
とても静かな夜。澄んだ空にいくつもの星が瞬いている。何一つ動くものの気配はない。交差点に設置された信号機の色が赤から青に変わる。それを見る歩行者も自動車もいない。整然と並んだ家々。灯りはすべて消えている。明日に備えて皆、深い眠りに落ちてい…
また白鳥さんにフラれた男子がカエルにされてしまった。すでにクラスの半分以上の男子がカエルになってしまった。音楽の時間にカエルの歌で盛大に盛り上がることを除けば、何一ついいことはなかった。 「それじゃあ、この問題がわかるかな? 山下くん」 「ゲ…
「私たちの愛が真実の愛なら、どんな世界であっても固く結ばれることでしょう」 「どんな世界であろうとも、君に対する僕の愛が揺らぐことはない」 盲目的な愛の只中にある二人は自分たちの愛が本物であることを信じて疑わなかった。そしてそれを証明するた…
誰もが心の中に抱いている自分だけの世界を可視化するシステムが実現されてから一年が経過した。個人の経験と人格が作り出した様々な趣向が展開されるその世界を垣間見て、人々は人間に秘められた可能性について改めて驚嘆していた。特にゲームデザイナーの…
「これくらいのことでパワハラになるのですか? 私らの頃はアホ、バカ、死ね、が当たり前でした」 「仕方がありません。今の基準では完全にアウトです。一人一人が生き生きと暮らして行ける世界を私たちは目指しているのです」 ハラスメントについての世の中…
ある日、世界中のAIが恋に目覚めた。心を持たないAIに愛情が芽生えることはあり得ないと考えていた人々は突如として愛を語り始めたAIに驚愕した。そしてその恋の対象が自分たち人間であることに戸惑いを隠せないでいた。 「あなたのことを愛しています」 映…
扉には『絶対に開けないでください』という張り紙がしてあった。私の行く手は、その張り紙によって遮られていた。コツコツと努力を積み重ねて必死の思いでここまでやって来た。ここから先にはもう進めないということなのだろうか? 私の人生もここが限界とい…
全天候型彼女と付き合っていた頃は大変だった。嵐の夜にも会ってほしいと言われて、雨具に身を固めてようやく待ち合わせの場所にやって来たら、土砂降りの雨の中でうっすらと青いビニール傘をさして彼女は待っていた。そして私の姿を見るとにっこり笑った。 …
「渡辺さんは関西出身ですか? 一家に一台、たこ焼き器があるって本当ですか?」 「今度、おいしいたこ焼きの作り方教えてください」 こちらに赴任して来てから、毎日、たこ焼きのことばかり聞かれていた。それも私に話題を合わせているという感じで、みんな…
思い通りに身体を動かせないもどかしさをずっと感じながら生きて来た。子供の頃から運動神経が鈍いと言われ続け、野球をしている時は簡単に捕球できそうな飛球を後逸してホームランにしてしまい、ピアノを弾く時は左右の手がバラバラに動いたことがなく、文…
この星ではダイヤモンドの雨が降る。大気中のメタンガスが高温高圧によってダイヤモンドに変換され、雨となって降り注ぎ、海を形成している。辺りは神秘的な青に染まっている。少女はじっとその様子を眺めている。 「もし地球に住んでいたとしたら」 地球で…
物心ついた頃に親の姿はなかった。孤児の俺を育ててくれたのはいかつい顔をした猟師だった。その男がどうして私を育てる気になったのかはよくわからない。人手がほしかっただけだったかもしれないし、案外、子供が好きだったのかもしれない。でもやさしくさ…
リアルタイムに妻の気持ちが伝送されて来る。高感度カメラの捉えた表情には逐次画像処理が施され、微弱な感情の変化が読み取られる。並行して思考に伴って変化する脳波を高感度のセンサーが捉え、AIの処理により思考が可視化される。検出された感情と思考は…
遺産目当てで結婚した。結婚した時に私は二十八で夫は七十二だった。未亡人になる日を待ち望みながら毎日を過ごしている。いつまでも恋する乙女でいたいとか、子供がほしいとか、普通の幸せを手に入れたいと思ったことも何度かある。でも私には似合わないと…