ダイアモンドが降る星

 この星ではダイヤモンドの雨が降る。大気中のメタンガスが高温高圧によってダイヤモンドに変換され、雨となって降り注ぎ、海を形成している。辺りは神秘的な青に染まっている。少女はじっとその様子を眺めている。

「もし地球に住んでいたとしたら」

地球ではダイヤモンドはとても貴重なものらしい。確かにキラキラしていて、とても美しい。少女は想像する。華やかな舞踏会の中で注目を集めている自分の姿を思い浮かべる。要人を招いての煌びやかな舞踏会。物腰柔らかな紳士と淑女がグラスを片手に談笑を交わしている。やがて大広間の二階に純白のドレスを身にまとい、胸に大きなダイヤモンドをつけた彼女が現れる。胸のダイヤモンドは四方八方に眩い光を放っている。

「王女様であらせられます」

外国から訪れた招待客は皆、目を細めて彼女の美しさに見とれている。そしてその美しさを際立たせている胸の大きなダイヤモンドに目が留まる。

「あれが有名なアフリカの星ですね」

彼女は地球で最大のダイヤモンドを身に着けていた。招待客は彼女とダイヤモンドの美しさにすっかり感嘆している。エスコートされながらゆっくりと階段を降りる彼女の姿を数多の視線が追いかけている。彼女は満面の笑みを浮かべ、自分に注目する人々を見下ろしている。

 

 空から採掘船が降りて来る。この星に無尽蔵に転がっているダイヤモンドを求めて、地球から遥々やって来た船だった。お父さんも採掘船の作業を手伝っている。いつも大量のダイヤモンドを地球に持ち帰っている。

「もしかしたらダイヤモンドは地球でもありふれたものになっているかもしれない」

少女は考える。空想に少し修正が入る。大広間の入口に若い娘たちが十人程度集まっていることに彼女は気付く。娘たちはどういう訳か皆、胸に大きなダイヤモンドを付けている。その後ろからシルクハットをかぶった紳士が現れる。

「ただいま天王星から帰還いたしました。本日、お集まりいただきました皆様には、天王星で採掘したダイヤモンドをもれなくプレゼントいたします。この娘たちが身に付けているものと同じです」

招待客たちは彼女に背を向けるとシルクハットの紳士が持参したダイヤモンドに殺到する。彼女が身に付けているダイヤモンドよりもずっと大きなダイヤモンド。それも数え切れない程、たくさんある。

「偽物ということはないですよね?」

招待客の一人が喜びに顔を引きつらせながら質問している。彼女は呆然としてその様子を眺めている。屈辱に歪んだ自尊心で顔をひきつらせている。もはや彼女と彼女の身に付けているダイヤモンドに関心を寄せる招待客は一人もいなかった。

 

「採掘船が着いたようだから、食料をもらいに行って来て」

母親が少女に用事をいいつける。そこで少女の空想は終わってしまう。純白のドレスを着て、地球で一番大きなダイヤモンドを身に着けていた彼女はもとの姿に戻る。

「どっちにしても同じことだ」

彼女はそう行って港に出掛ける。天王星では今日も静かにダイヤモンドが降り続けている。

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