また白鳥さんにフラれた男子がカエルにされてしまった。すでにクラスの半分以上の男子がカエルになってしまった。音楽の時間にカエルの歌で盛大に盛り上がることを除けば、何一ついいことはなかった。
「それじゃあ、この問題がわかるかな? 山下くん」
「ゲロゲロ」
「山下くんは具合が悪いみたいなので代わりに川上くん」
「ゲロゲロ」
現実逃避を続ける先生は、山下くんと川上くんがカエルになってしまったことを決して認めようとはしなかった。カエルになってしまった彼らはこの先、どうなってしまうのだろう? 僕はとても心配していた。なんとか助けてあげることはできないだろうかと思って、白鳥さんの方を見た。白鳥さんは笑っていた。白鳥さんにフラれてカエルになってしまった男子を見る度に、腹を抱えて笑っていた。全然、助ける気はないようだった。
カエルになってしまったみんなを人間の姿に戻すためには、白鳥さんに勝って魔法を解いてもらわなければならなかった。ゲームでもスポーツでも何でもいいから白鳥さんに勝たなくてはならなかった。でも白鳥さんは運動神経も良くて頭も良かった。シューティングゲームの反射速度も半端なかった。チェスや将棋の読みの深さも半端なかった。どうすれば白鳥さんに勝てるだろう? そのことでずっと悩んでいたら、突然、イケメンが転校して来た。それまで男子にまったく興味を示さなかった白鳥さんが、顔を真っ赤にして目を伏せていた。どうやらイケメンのことが好きになってしまったようだった。
「恋の苦しみがやっとわかった。私はなんてひどいことをしていたのでしょう」
白鳥さんが言った。
「じゃあ、カエルにされたみんなを元に戻してください」
僕は白鳥さんに懇願した。
「そうね」
白鳥さんはわかってくれたようだった。恋の苦しみを知った白鳥さんがもうすぐみんなの魔法を解いてくれるに違いない。僕は期待していた。でも何だか白鳥さんの様子が変だった。白鳥さんはいつの間にかすっかり小さくなってしまい、全身がぬるぬるして、緑っぽくなっていた。イケメンにフラれたせいで白鳥さんはカエルになってしまったのだった。なんてこった。カエルになったみんなを人間に戻すには、まずカエルになった白鳥さんを人間に戻さなければならなくなってしまった。僕たちは白鳥さんを人間に戻してもらうようにイケメンに頼み込んだ。でもイケメンはにやにや笑うだけだった。
「俺がカエルにして来た女の子は星の数ほどいる。そんなのいちいちかまってられない」
イケメンは冷たくそう言った。
そんなある日、美少女が転校して来た。イケメンは美少女に一目惚れしてしまったようだった。そして僕たちの予想通り、イケメンは美少女によってカエルにされてしまった。なんてこった。カエルになったみんなを元に戻すには、カエルになった白鳥さんを人間に戻さなければいけないが、その前にカエルになったイケメンを元に戻さなくてはならなくなってしまった。二重、三重の手間が掛かることになってしまった。でもカエルになったみんなも白鳥さんもイケメンも音楽の時間になると喜んでいた。
「グワッ、グワッ、グワッ、グワッ、ゲロゲロゲロゲロ、グワッ、グワッ、グワッ」
「グワッ、グワッ、グワッ、グワッ、ゲロゲロゲロゲロ、グワッ、グワッ、グワッ」
「グワッ、グワッ、グワッ、グワッ、ゲロゲロゲロゲロ、グワッ、グワッ、グワッ」
それはとても見事なカエルの歌の三重奏だった。