タイムトラベルの限界

「本日付でこちらに配属となりました。テリュース・グランチェスターです」

今日から司令部直属となった。目の前には幹部が何人も座っていた。

「グランチェスター少佐。ごくろうさまです。君の卓越した能力を活かしてもらいたい任務があって来てもらいました。とても重要な任務です」

最高司令官アードレ―元帥から直々にお言葉をいただいた。身の引き締まる思いだった。

「知っての通り、ここ数年ウェストリアの挑発が続いています。そして残念ながら、現在の我が国に対抗する術はありません」

隣国ウェストリアの軍事的脅威は増すばかりだった。こうしている間にも最新兵器の配備を進められていた。戦力差は益々開いて行くばかりだった。

「そこで君に重要な任務を任せたい。単刀直入に言います。未来に飛んでほしい」

「未来?」

「そうです。長年に及ぶ研究の結果、遂にタイムトラベル技術を確立することができました。君はこの装置を使って三十年後の未来へ赴き、その時代の軍事技術を持ち帰るのです」

そうだったのか! いかに隣国の軍事技術が優れているとは言っても三十年後の技術に比べれば陳腐なものに違いない。

「何か質問はあるかね?」

「それでは僭越ですがお聞かせください。三十年後というのは何か理由があるのでしょうか? もっと先の未来に行った方がより優れた技術を入手できるような気がします」

「無論、私たちもそうしたいのだが、君を未来へ送り届けるためには1.21ピカワットのレーザー出力を次元点火装置に送り続けねばならない。それを可能にするのが希少元素タイパニウムだが、現在の保有量では三十年が限界なのだ」

「わかりました。必ずや成功させてみせます」

そして私は三十年後の未来へ旅立った。

 

 三十年後の未来へ行き、私はこの時代の軍司令部に出頭した。三十年前に受けた任務(とは言っても私にとっては一週間前に引き受けた任務だったが)が指示として残っていた。そして私は軍事機密の入ったメモリーを受け取り、現代に帰還した。

「素晴らしい。これで我が国は救われるだろう」

帰還した私は最大級の賞賛を受けた。任務を終えて私は大佐に昇格した。しばらく平穏な日々が続いたが、一か月後にまた呼び出しを受けた。

「グランチェスター大佐。君に任せたい任務がある。五十年後の未来に飛んでもらいたい」

「どういうことですか?」

「どうやらウェストリアもタイムトラベル技術を完成させたようだ。潜入させたスパイの報告によると四十年後の軍事技術を入手したらしい。我が国が優位を保つためにはもっと未来に行かなければならない」

「でもタイパニウムは三十年先までの分だけしかなかったのでは?」

「今回、民間からタイパニウムをかき集めた。現在保有している分と合わせると五十年先まで飛べることになる」

「承知しました。至急、五十年後に向かいます」

そして私は五十年先の未来へ飛んだ。

「これは・・・」

そこに人の気配はなかった。廃墟となった建物があるだけだった。野良犬一匹歩いていなかった。私はすぐに帰還した。

「五十年後には世界は滅亡しています」

司令部の面々は私の報告に唖然としていたが、世界滅亡の原因を調査するため、それからも私はタイムトラベルを重ねた。そしてその原因を突き止めた。

「世界滅亡の原因がわかったというのは本当かね?」

司令部に所属する幹部の一人が私に尋ねた。

「今から四十三年後にウェストリアとの戦争が勃発し、同盟国を巻き込んだ世界大戦になってしまったようです」

「どうしてウェストリアとの戦争になったのかね?」

「その頃、ウェストリアと領土問題で争っているアングル島近海で膨大なタイパニウムの鉱床が発見されたのが原因と思われます」

希少元素タイパニウムをタイムトラベルに活用したことで、はるか遠くまであったはずの未来はずっと近くで終わることになってしまったようだった。