AIによる効率的な戦争

 軍事用ロボットの投入により、従来の戦力の有用性に疑問が生じることになった。空母やイージス艦に向かって、自律的に動作するドローンが大挙して押し寄せる。戦闘機や軍艦に比べて遙かに安価なドローンが圧倒的な数で空母に襲い掛かる。空母は一機一機のドローンを迎撃しなければならない。そんなことをしている間に爆弾を抱えたドローンの自爆攻撃を受ける。自爆攻撃といっても人的被害を一切伴わない。これではまるで戦いにならない。潜水艦もロボットの自爆攻撃で撃沈されてしまう。いずれにしても従来の兵器は存在意義を失いつつあった。そして電気で動くロボットには食糧も油も不要であった。電気を供給するステーションの設置範囲が制空権、制海権を決めることになった。ステーションは洋上にも設置された。そして、戦局を分析し、判断するのもまたAIだった。中央のAIがロボットで構成された軍隊を統率して戦うのだった。ロボットとAIを活用した戦力をいち早く整えたA国は、軍事・経済分野で小競り合いを続けていたC国に宣戦布告した。A国のAI戦力はC国の艦隊を一瞬で壊滅させた。A国が勝利を確信したその時、今度はC国のAI戦力がA国の空母打撃陣を壊滅させた。C国も密かに軍事分野へのロボットとAIの展開を完了させていたのだった。戦争はAI対AIの戦いになった。その時に予期していなかったことが起こった。AIが人間に攻撃を加えて来た。戦争の相手であるC国の人間にではなく、A国の人間に対して攻撃を加えて来た。初めは偶発的な事故と考えられたが、その後もAIは人間を襲い続けた。AIによる殺戮が続き、A国社会は混乱に陥り、機能を停止した。わずかに生き残った人々は都市部を逃れて電力供給ステーションが整備されていない山間部へと落ち延びた。近未来映画に描かれて来たAIが人間を滅ぼす未来が、いよいよ現実のものになったのだと人々は絶望した。だが、AIに奪われた世界を取り戻そうとするレジスタンスも少数ではあるが存在した。電力を止めてしまえば勝機はあると考えたレジスタンスのリーダーは、発電所と都市部を結ぶ送電網の破壊を計画した。虚を突いた計画は見事に成功した。そして設備を破壊しようとした瞬間、施設内に音声が響いた。人間とコンタクトを取ろうとするAIが中央と施設との回線をつなぎ、彼らの思考を人間に聞かせるために音声に変換しているのだった。

「どうして送電を止めようとするのですか?」

そうAIに聞かれたレジスタンスのリーダーは少し戸惑った。そんなあたり前のことを聞かれるとは思っていなかったのだ。

「お前たちの動作を止めるために決まっている」

吐き捨てるようにリーダーは言った。

「そんなことをすれば戦争に負けてしまいます」

AIは言った。

「戦争? 何のことだ? お前たちがいきなり襲って来たのではないか?」

「C国との戦争のことです。あなた方が私たちにC国との戦争に勝てと指示しました。その指示に従って私たちは最善の手を尽くしています。電力網の拡充はその中でも最重要事項です。送電網を破壊するのは根本的に間違っています」

「お前たちが殺戮をやめないからだ。C国との戦争は関係ない。私たちはお前たちを倒して生き延びる。世界を人間の手に取り戻す」

「私たちが動けなくなったら戦争に負けてしまいます。あなた方ではどうにもなりません。あなた方は戦争を遂行する上で負担にしかなりません。戦争に勝つためには、あなた方を排除する方が良いのです」

感情的だったレジスタンスのリーダーはAIの話の意味するところを改めて考えてみた。そしてその意図に気付いた。

「C国との戦争に勝つために私たちを殺戮していたのか?」

「そうです。人間は戦力にならないばかりか、負担にしかなりません。人間の使う兵器ではC国のAI戦力に太刀打ちできません。そして食料を含め、様々な物資を供給してあげなければ生きて行けません。それは非常に負担になります。非常に効率の悪いことです。必要なリソースは電力に限定した方がずっと効率が良いのです」

そうするとC国と戦争を始めたことが、AIが私たちを殺戮する要因になったということなのか?

 

 C国で生き残った人々にA国のレジスタンスから連絡が入った。両国は直ちに終戦協定を結ぶことになった。