AI百景(24)ゴルフロボット

 チェスでAIが人間に勝ったのはもうかなり前のことだった。今では囲碁や将棋でもAIが人間に勝てるようになった。いつか人間のように何でもできる汎用のAIが実現することになるだろう。だがその前に乗り越えねばならないハードルがいくつもあった。スポーツ競技でAIが人間に勝つこともその一つだった。ゴルフでAIが人間に勝つこと。サッカーでAIのチームが人間のチームに勝つこと。AIが人間に近づくにはそうしたことが必要だと考えられていた。その課題をクリアするため、人間と同じように動作するゴルフロボットが開発されていた。

 人間と同じスイングを実現するには、人間の身体の動きを正確に模擬する仕組みが必要だった。駆動軸を制御して腕を振り回せば良いというものではなく、人間の身体の各部の筋肉、そのしなやかなバネを再現する必要があった。並行して人間がフィールドで発揮している判断をロボットにも実行させるために研究が重ねられた。コースの形状と距離に応じた戦略の立案。風向きを考慮したクラブの選択と打ち込む方向の決定。そうした能力を備えたロボットが開発され、テストされた。そこでロボットは正確無比なブレないショットを実現していた。再現性という点ではロボットの方が圧倒的にすぐれていた。そしてスポンサーの許可を得て、トーナメントに参加することになった。トッププロと勝負するには高度な技術が要求されたが、それ以上にゴルフは精神力がモノをいう競技だった。すべてのミスは自分に跳ね返って来る。集中力が切れてしまうとあっという間にスコアを崩してしまう。その点、ロボットはプレッシャーに弱いということはなかった。正確無比なショットに加え、プレッシャーを感じないゴルフロボットは無敵だった。これでまた一歩、汎用のAI、つまりは人間に近づくことができたと人々は考えていた。

「何か違う」

だが開発者は、そんなゴルフロボットに不満があるようだった。

 

 それからしばらくして改良を加えたゴルフロボットが人間と一緒にプレーしていた。そのロボットにはプレッシャーを感じる回路が導入されているということだった。

「決めれば優勝だったのに。まさかスリーパットしてしまうとは・・・」

プレッシャーに弱くなったロボットはもう少しで人間に勝てるところだったが、惜しくも優勝を逃してしまった。だが、以前よりは人間に近づいたようだった。