「顧客の問い合わせに対して製品知識を学習したチャットボットが的確に対応するようシステムを構築しました。実際、オンラインで契約に至ることは少ないですが、どの車種に対してどのような年齢の方に興味を持っていただけているか、どのような用途で購入されようとしているかをデータベースに蓄積することができました。そしてその情報を元に実際に来店されたお客様に対して有効なアプローチが可能となりました」
販売が低迷している中、AIを活用して業績を改善しようとする試みが全社的に行われ、その活用事例についての報告会が開かれていた。
「発表ありがとうございました。それでは次の発表をお願いします」
「私たちは営業部員の行動を分析しました。どのような手段、頻度で顧客と連絡を取っているか、何に時間をかけているかといったことです。成績の良い営業員の効率の良い行動を他の営業員にも展開して行きたいと考えています」
次々に発表が行われていた。それぞれに工夫が凝らされており、改善に取り組む担当者の並々ならぬ決意が感じ取られた。
「それでは最後に最優秀賞のチームに発表していただきます。よろしくお願いいたします」
報告会に集まった人たちは注目した。
「私たちはタブレットをお客様に渡して、その中のAIに営業してもらいました」
AIに営業してもらう? 何だそれは? 誰もがそう思った。
「まず、顔立ちや目の大きさ、髪型を選択してもらいます」
「何のことですか?」
発表の内容がAIの活用から逸脱しているのではないかと疑問を感じた司会者は言った。
「お客様に営業活動を行うAIのことですよ。お客様の好みに応じた項目を入力すると三次元の容貌を自動で生成します。男性用と女性用があります。女性の方だって、むさくるしいおじさんの話なんて聞きたくないじゃないですか? たとえタブレットの画面の中であっても、イケメンが親身になって提案してくれていると、じゃあ買おうかという気持ちになるものです」
真摯に業績改善に取り組もうと報告会に集まって来た人たちは、自分たちのやる気が徐々に消えて行くのをどうすることもできなかった。