AIを駆使して古代文字の解読に成功した。これでようやく長年の苦労が実を結ぶことになると思った。だが書かれていた内容を見て仰天した。そこには恐るべき古代兵器の製造方法が記述されていた。自分はロマンを求めて考古学者になったのだ。殺戮や支配を求めてではない。でも学者として研究の成果は上げねばならない。どうしたものかと思って親友のK教授に相談した。彼の知見と実績と実直さが今の私には必要かと思われた。
「これを発表してしまえば恐ろしいことになるだろう」
K教授は言った。
「このことは私と君だけの秘密にしておかなければならない。世界を破滅から救うためにはやむを得ない」
そして私は古代兵器のことは一切忘れて、他の研究に没頭することにした。
「F教授はご在宅でしょうか?」
それからしばらくして私を訪ねる者があった。縁なしの眼鏡をした狡猾な目の男だった。黒服に黒のサングラスをかけた部下を数名引き連れていた。
「あなたの研究に興味がありましてね」
「私の研究?」
「例の古代兵器のことですよ」
どうしてそのことを知っているのか? 私とK教授しか知らないはずだ。咄嗟に私はK教授が私を売ったのだと思った。こいつらは軍関係者か公安に違いない。そして私の家にあるコンピューターと資料はすべて押収され、私も一緒に連れて行かれた。
「コンピューターの中を調べさせてもらいました。ものすごい性能ということはすぐにわかりました。火の七日間という言い伝えはどうやら本当にあった出来事のようですね。この兵器を復活させれば、我々は世界を手中にできる」
「そんなことをして何になる?」
「支配しなければ支配されてしまう。世界はそういうふうにできています。ところで性能は理解できましたが、肝心の製造方法が見当たらない」
私は万が一の情報漏洩を恐れて、解読の対象となった古代文字を破棄していた。解読した内容も電子データとして保管せず、手書きのメモに情報を残していた。だがやつらがそれを手に入れてしまえば大変なことになる。
「手書きの資料があるはずだ。彼はそういう男だ」
そこにはK教授が立っていた。
「あなたという人は!」
私はあらん限りの憎悪を絞り出してK教授をにらんだ。
「仕方がなかった。国家には逆らえない。許してくれ」
K教授の話を聞いた彼らは私の家から押収した資料を隈なく調べ始めた。
「手書きの資料がいくつか見つかりました」
黒服の部下が報告していた。
「読み上げてみろ」
「それが・・・」
「どうした?」
「何が書いてあるのかよくわかりません」
部下の報告を聞いた縁なし眼鏡の男は資料を手に取って眺めていた。
「なんだ? この汚い文字は?」
私の字が汚いだと? 私は危機的な状況にもかかわらず、内心腹を立てていた。
「あまりに汚いので人間が読むのは不可能だ。AIに解読させよう」
縁なし眼鏡の男に命令された部下たちは私の手書きの資料をスキャンしてAIに読み込ませた。
「ダメです」
黒服の男たちの意気消沈した声が聞こえた。私の文字の難読性は古代文字を超えているようだった。