魔女の見分け方

「お前は魔女だな?」

近くの中学校で私たちは魔女狩りに遭っていた。

「魔女を見分ける方法はいくつかある。そのうちの一つを試してみるとしよう。お前たちは知っているか? 魔女は水に浮くのだ。魔女でなければ水に沈むはずだ」

聖書を片手に持った神父がそう言うと、彼の部下が右端にいた三人をプールに突き落とした。服を着たまま突き落とされた女たちは溺れないように必死になって水面に顔を突き出していた。

「それ見ろ。あいつらは魔女だ。しっかりと水に浮いている」

水面に必死に浮いていたうちの一人が沈んだ。泳げなかったのだろうか? 水に浮かんだままの二人は魔女ということで連れ去られてしまった。魔女でないことが証明できた一人は二度と浮かび上がって来なかった。

「悪魔と契約した魔女は身体の何処かに契約の印があるはずだ」

魔女を見分ける別の方法を神父が語った。次の三人が裸にされた。悪魔との契約の印がないか男たちに丹念に調べられた。

「ここに印がありました」

部下の一人がそう言った。彼は裸にされた女の身体のある一点を指さしていた。遠くからではわからなかったが、そこにはほくろがあるようだった。

「この女にも印がありました」

別の部下が言った。彼は女の腕にある痣を指さしていた。女は腕や足のあちこちに痣があった。ここに連れて来られるまでにあちこち殴打されたようだった。

「思った通りだ。今日もたくさん魔女が見つかる」

神父は得意になっているようだった。

「残りの者はあの方法で見分けるとしよう」

神父がそう言った。それから私たちは校舎の屋上に連れて行かれた。

「魔女は空を飛ぶ。残った者は全員ここから飛び降りてもらおう」

屋上の隅に立たされた女が突き落とされた。彼女はもちろん空を飛べなかった。そして地面に激突してそのまま動かなくなった。

「魔女なら飛べば良いものを最後までしらを切りよって。正体を明かしても良いのだぞ?」

続けて隅に立たされた二人目の女は恐怖で顔を引きつらせていた。

「やれ」

神父が指示した。また女が突き落とされた。地面に激突した。一人目と同じように周囲に血をまき散らして、動かなくなった。

「次はお前の番だ」

神父は私を睨んでそう言った。校舎の屋上の隅に突き出された。恐怖で足がすくんでいた。下を見ると、先に突き落とされた二人が血を飛び散らせて倒れていた。もう助かる見込みはないのかと思った。いったん魔女の嫌疑をかけられてしまったなら、確実に殺されてしまう。魔女でないことを証明するには水に沈んだままでなければならないし、空を飛べるか確認するために屋上から突き落とされてしまう。落下して死んだ二人は魔女でなかったはずだ。そんなことを言ってももう遅い。短い人生だった。成人したばかりなのに。やっとこれから人生を楽しめると思っていたのに。ちゃんとした恋だってしたことがない。この先に広がっていたはずの私のあらゆる可能性は今この場で奪い取られてしまうのだ。悔しい。なんとかして助かる手立てはないのか? 誰でもいいから助けてくれるなら何だって言うことを聞く。今、この場で悪魔と契約しろというなら、やって見せる。それにしても神は何処に行ったのだ? 無実の人間がこんなに殺されているのに知らん振りか? もともと神なんていなかったのだ。そんなものを信じていた私がバカだった。

「本当に契約してくれますか?」

声がしたかと思うと、全身真っ黒の悪魔が翼を羽ばたかせて空中に静止していた。藁にも縋る思いで私はその場で悪魔と契約した。このまま死んでしまうよりは、どんな手段を使っても良いから生き延びたい。誰だってそう考えるだろう。

「やれ」

神父の指示に従って私は突き落とされた。私は落下した。地球の重力が私の落下速度を加速させていた。このまま地面に激突して私は卵の殻のようにぐしゃりと潰れてしまうのだと思った瞬間、私は悪魔に受け止められていた。屋上から神父と彼の部下が見下ろしていた。彼らは空中に静止している私を見て唖然としていた。

「助けてもらって恐縮ですが、お願いがあります。あそこにいる連中を突き落してもらえないでしょうか?」

私は屋上にいる神父とその部下を指さして言った。

「別に構わないよ」

悪魔はそう言うと、神父と彼の部下をことごとく屋上から突き落していった。彼らは皆、地面に激突してカエルのようにぺしゃんこになって死んだ。

「何だ? みんな人間だったのか? あれだけ残虐非道なことをしていたから、てっきり魔女かその仲間だと思っていたのに」

私は悪魔にそっと囁いた。