AI百景(13)理想のパートナー

「髪の色を選んでください」

画面にいろんな色の髪が表示されている。薄い金髪からカラスの羽のような黒髪まで少しずつ色が違っている。パステルカラーもある。薄いピンク、パープル、マリンブルー。アニメーションにはよく出て来る色合いだ。よく考えた末にちょっと冒険してマリンブルーにした。

「髪型を選んでください」

次は髪型だった。ロングかショートか? 巻き髪、ポニーテール、ツインテール。いろいろな髪型が表示されている。こうして一つ一つパーツを選択し、理想とする姿のパートナーを作り上げて行く。それから私は目の色、目の形、顔の輪郭、体形、バストのサイズを選択した。容姿が決まると次は声だった。明るい声、甘ったるい声、少しハスキーな声。容姿も声も選択したものを画像や音声として出力して、気に入るまで調整することができた。それはまったくオリジナルな私だけの恋人だった。画面上のシミュレーションで細かな動作を十分に確認してから注文を確定させると一週間で理想の容姿と声を持ったパートナーが届いた。

「お風呂にしますか? それとも食事にしますか? それとも?」

パートナーは日常会話をこなすAIを搭載していた。そしてとても精巧にできていた。肌も髪も人間のそれと同じ感触をしていた。もちろん愛し合うこともできた。

「おまえにするよ」

私はそう言って理想のパートナーと心ゆくまで愛し合った。理想のパートナーは常に私を満足させてくれた。

「お疲れ様です」

疲れて帰って来た時も、彼女の笑顔を見るといつも幸せな気分になることができた。

 

そんな暮らしがずっと続いた。理想のパートナーと歩む素晴らしい人生だった。瞬く間に時が過ぎ、いつしか私はすっかり年老いてしまった。鏡を見ると、そこには白髪で皺だらけの冴えない老人がいた。

「人間だから仕方がない」

そう思うしかなかった。人生には限りがある。誰もが年老いて死んで行く。絶大な権力を手にして不老不死を探し求めた王や皇帝ですらその運命に抗えずに死んで行った。そうして自らに訪れた老いをしぶしぶ受け入れながらリビングに戻ると、いつまでも若くて美しい理想のパートナーがソファに座っていた。

「お風呂にしますか? それとも食事にしますか? それとも?」

そう言う彼女が次第に憎らしくなって来た。私はすでに彼女を愛する能力を失っていた。あと十年もすれば死んでしまうのだと思った。彼女は私の言うことを正しく理解して、的確に会話を返してくれていた。だが現在の私の気持ちを理解できるとは到底思えなかった。老いぼれてしまったことの哀しみ、死への恐れ。私の理想のパートナーには絶対に理解できないことだった。