2022-01-01から1年間の記事一覧

魔女の見分け方

「お前は魔女だな?」 近くの中学校で私たちは魔女狩りに遭っていた。 「魔女を見分ける方法はいくつかある。そのうちの一つを試してみるとしよう。お前たちは知っているか? 魔女は水に浮くのだ。魔女でなければ水に沈むはずだ」 聖書を片手に持った神父が…

夏休み

八月三十日になった。今年も例年と同様に夏休みの宿題に全く手を付けていない。少しでもやっていればすぐには終わらないことに気付いて然るべき対策を取るのだろうが、全く手を付けていなければ何もしていないということすら意識に昇らず、まっさらな手つか…

余命三千メートル

「あなたの余命は残り三千メートルです」 電話の声は冷たく言い放った。巷ではその手の病が流行っているようだった。余命三千に関わるウイルスの変種が次々に発生していて、私もそいつにやられてしまったようだった。仕方なく、なるべく動かなくて済むような…

連載小説「もうひとりの私」について

ショートショートのつもりが5000文字くらいになってしまって、これでも端折ったので、きちんと書いたらどれくらいになるのだろうと思ったら1万文字くらいになって、そうだ、ここはひとつ連載小説というのを試してみようということで5/17から「もうひとりの私…

メイドとマーメイド

私はマーメイド。すぐに死んでしまう人間とは違って三百年生きられる。でも死ねば泡となってしまう私たちとは違って人間には魂というものがあり、死んだ後は天国に行けるのだという。深海に棲む老女にその話を聞いてから、いつしか私は死んだ後は天国に行き…

現代の錬金術

尊師の仰られたように、この国は生まれ変わらなければならない。政治家は選挙に当選することしか考えていない。手にした権力を濫用して利権を貪ることしか考えていない。彼らはいつも中抜きできる構造を丹念に構築する。既得権益を守るのに必死で、口先だけ…

カエルの輪廻転生

「生まれ変わるとしたら何が良いだろうか?」 池のほとりに集まったカエルたちが話し合っていた。ずっとこの池に棲んでいる長老の話によると、私たちは輪廻転生という仕組みの中で生き死にを繰り返しているということだった。その仕組みの中では平民のカエル…

人体冷凍保存

「やあ、おはよう」 遠くから声が聞こえる。誰だろう? 私はずっと眠っていたのだろうか? そうだ。私は末期がんと診断されて絶望していた。余命はあと三か月と言われた。私はやっと二十歳になったばかりだった。まだまだ人生はこれからという時に死んで行か…

再生医療

ABS細胞が発見されてから再生医療は目覚ましく発展を遂げた。事前にABS細胞を採取して保管しておくことで必要になった時に再生医療を受けることができる。心臓や肺を早急に移植しなければ助からないとなった時に、ドナー登録している人が都合良く亡く…

AIによる効率的な戦争

軍事用ロボットの投入により、従来の戦力の有用性に疑問が生じることになった。空母やイージス艦に向かって、自律的に動作するドローンが大挙して押し寄せる。戦闘機や軍艦に比べて遙かに安価なドローンが圧倒的な数で空母に襲い掛かる。空母は一機一機のド…

余命予測装置

ユーロが最安値圏に入ったと思って逆張りを仕掛けた。ここまで下がったら後は戻すに違いないと思っていた。長期的にはその判断は当たっていた。だが短期的には私の予測よりも極端なユーロ安になり、保証金が足りなくなった。ロスカットされないよう下がる度…

老後資金

番号札を受け取り、クリーム色のソファに座って順番を待っている。待合室は順番を待つ人々で溢れている。もう一時間くらい待っている。デジタル表示器が現在受け付けている番号を表示している。やっと百七番まで来た。もうすぐ私の番だ。 「百八番の番号札を…

ゾンビ対吸血鬼

世界中の強豪を集めての「嚙みつき対決」はいよいよ終盤に差し掛かり、準決勝の好カード「ゾンビ対吸血鬼」を迎えていた。「どちらが勝ってもヤバくない?」という観衆の熱い視線が闘技場の中央でにらみ合いを続ける二人に注がれていた。 「ゾンビに噛みつか…

ブログについて

「小説家になろう」に2021年10月から毎週投稿していたショートショートを本ブログにも投稿することにしまして、2022年3月5日から毎日更新していたのですが、さすがに毎日だと簡単に追いついてしまいました。そういう訳で4月1日より「小説家になろう」の投稿…

地球温暖化とK男爵

地球温暖化を阻止するためにライフスタイルの見直しが奨励されていた。省エネ、省資源、ゴミの分別から電気自動車の活用。環境問題に熱心なK男爵はいちはやくハイブリッド車に切り替え、そして今度は電気自動車に乗り換え、広い邸宅の屋根にはソーラーパネ…

深海のセイレーン

「歌が聞こえます。誰かが海の中で歌っています。これは噂の魔女に違いありません。セイレーンが出現しました」 「どこからだ?」 「方位1-4-0からです。あっ、発射音です。魚雷が向かって来ます」 「回避」 「だめです。避け切れません」 我が海軍の誇…

マザーコンピューターと忍者

「捨て猫を拾った忍者」の続編です。 巨大な中央コンピューターの前にクナイを手にした忍者が立っていた。服のあちこちが破れ、左手からは少しずつ血が滴り落ちていた。激しい戦いがずっと続いていた。多大な犠牲を払ってようやくここまで辿り着いた。遠くで…

火星で生活するための訓練

地球以外にも生命は存在するのだろうかと人類はずっと問い続けてきた。もっとも近くにある月は長らくその対象だったが、科学技術の進展により生命を育むための環境に必要な要件が次第に明確になるにつれ、生命が存在する可能性は否定された。それからは無人…

壁の向こう側

フラットアースを支持する地球平面派は動画サイトを利用して着実に支持を延ばしていた。十年前は六人に一人が信じていたフラットアースは今や四人に一人が支持するようになっていた。彼らの信じている地球の姿は以下のようなものであった。 ・地球は北極を中…

マザーコンピューターと地球連邦総督

巨大な中央コンピューターの前に銃を手にした軍人が立っている。右手からは少しずつ血が滴り落ちている。足元には彼の部下が何人も倒れている。尊い犠牲の上にやっとここまで辿り着いた。遠くで激戦を繰り広げている人々の叫び声が聞こえて来る。ようやく人…

片想いの考古学者

ゴーギャンは『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』というタイトルの絵を描いた。私たちはいろいろなことを知っているつもりでいるが意外と何も知らないということを、この絵のタイトルは示しているように思える。真ん中の問いと最…

ショッピングモールの警備員

ショッピングモールを同僚と巡回する。警備員がいるのだと知らせることが犯罪の抑止にもつながる。事件が起きてしまった場所に駆け付けるだけが私たちの仕事ではない。それより事件が起きないように配慮することが大切であり、そのためにもできるだけ何度も…

裏切り者の魔法少女

<<エターナル・フリーダム・クラッシュ♡>> 杖に集めた生体エネルギーが追手に向かって勢いよく放出される。追手はお腹を両手で押さえながら力なく膝をついている。いつもより威力は落としてあるので命に別条はないはずだ。本来、私たちは敵味方に別れて…

ゾンビの紛れ込んだマラソン

オリンピックの代表選考を兼ねたレースが始まろうとしていた。マラソンの代表枠は三名で既に二名が確定している。今日のレースに勝てば、三人目の代表になることができる。ただしタイムが他の代表二名に比べて著しく劣る場合は取り消す場合もあると協会の重…

悪魔の憂鬱

人の行動を左右する内面での葛藤は、しばしば擬人化して表現される。欲望のおもむくままに利己的な行動に導こうとするのが悪魔であり、理性的で利他的な行動に導こうとするのが天使であるとされている。小さな子供が「僕の中で、いい方の僕と悪い方の僕が喧…

余命三か月の宇宙人

「地球の皆さん、こんにちは。私はずっと遠くの星から来ました。今までに数多の星々を駆け巡り、幾多の冒険を繰り広げて来ました。そして最後に地球に辿り着きました。最後というのは他でもありません。二千年を超える私の寿命が尽きようとしていることが医…

ワルハラの自衛官

馬に乗せられている。馬の首と騎手との間にうつ伏せにされて運ばれている。眼下には緑の大地が広がっている。谷に沿って川が流れているのが見える。家や道路を走る車がとても小さく見える。馬は空を駆けているのだ。そして馬に担がれた私は空から地上を見下…

時限爆弾

私はレッド。戦隊のリーダーを務めている。メンバーは私以外にブルー、イエロー、ピンク、グリーンの四人がいる。私たちは警察や自衛隊では対応できない危険でやっかいな事案を扱っている。互いの背を預け、何度も死地を切り抜けて来た者同士が持つ強い信頼…

捨て猫を拾った忍者

森を抜けると目的地はすぐそこだった。重要な任務だったが何とか無事に役割を果たせそうだった。背負い箱の中を気にしながら、樹上を駆け抜ける。箱の中には我が伊賀一族の命運を左右する大切なものが入っている。これを無事に本部に届けることが私に課せら…

CO2排出量

「申し訳ありませんが、あなたの今年度のCO2排出量がまもなく上限に達します。次年度までに必要な排出量をすみやかに購入してください」 電話の主はそう告げた。 「CO2排出量?」 「知らなかったのですか? 今年度から適用されています。呉田政権が公…