裏切り者の魔法少女

<<エターナル・フリーダム・クラッシュ♡>>

杖に集めた生体エネルギーが追手に向かって勢いよく放出される。追手はお腹を両手で押さえながら力なく膝をついている。いつもより威力は落としてあるので命に別条はないはずだ。本来、私たちは敵味方に別れて戦うべきではないのだ。何かが間違っている。動けなくなった追手の前から立ち去り、誰もいない夜の公園で変身を解く。魔法界から執拗に送り込まれる刺客と戦いながら、一日一日を生き延びている。仕方がない。ふとしたはずみで仲間の魔法使いを傷つけてしまったのは事実だ。それ以来、私は裏切り者の魔法少女として生きている。

「麗華、何処に行っていたの?」

戻って来た私を見て心配そうに美波が聞いて来る。人間界に来て、初めて友達になったのが美波だった。当時、私は人間界に勉強に来ていたのだ。姿かたちは私たちと同じだが違う種族である人間。彼らから学べるものはたくさんありますと女王様は言っていた。そして私は転校生として、美波の通っていた高校に転入して来た。だが、どういう訳かは知らないが、私とは別に潜入していたもう一人の魔法使いが美波をしつこく追いまわしていた。私は美波を守るために、もう一人の魔法使いである絵美を傷付けてしまった。それ以来、私は追手につけまわされることになってしまった。

「ちょっと散歩してきた」

私は答える。

「実は麗華に大事な相談があるの」

「どんな相談かな?」

「魔法についてのこと」

えっ、どうして美波が魔法のことを知っているのだろう。彼女は私が魔法使いであることには気付いていないはず。

「パパが魔法のことを調べているのを知ってしまったの。この世には、人間界とは違う魔法界というものが存在しているらしくて、パパはその力を手に入れようとしている」

人間が魔法の力を手に入れようとしているなんて気付かなかった。その企みは防がなくてはならない。魔法界と人間界は互いに干渉しないことで平和が保たれて来たのだ。

「美波のパパは難しい研究をしていると聞いていたけど、まさか魔法の研究をしていたとは知らなかった」

「そう。そしてパパは魔法の放つ特別な粒子を検出する装置を開発した。これを使えば魔法使いのいる場所を割り出せると言っていた。そして装置から粒子を放てば、魔法を中和して無力化できる。そうやって魔法使いを捕えるつもりらしい」

そんなことは断じて許されない。なんとしても計画を阻止しなくてはならない。

 

 美波のパパの研究室のある工場に密かに潜入する。車両に載せた機関銃のようなものが置いてある。あれに違いない。まずはあれを使えないようにしなくてはならない。

「エターナル・フリーダム・・・うっ」

魔法を使おうとした時に衝撃を受ける。振りむいて見ると同じような装置があった。あれに撃たれたのか。ちくしょう。あっちは囮だったのか。

「早速、魔法使いが紛れ込んで来るなんてラッキーなことだ」

仮面を被った黒ずくめの男が私の前に現れる。

「美波のお友達に魔法使いがいるらしいということは以前から掴んでいた。その時には他の魔法使いに邪魔されてしまって残念ながら諦めるしかなかった」

それは絵美のことなのか? 絵美が美波を追いまわしていたのは、そういうことだったのか? それなのに私は絵美を傷付けてしまった。

「君には悪いが、私の研究に協力してもらうよ。魔法を中和する装置は作ったが、魔法を発動できる訳ではないからね。その謎を解明するための実験材料になってもらうよ」

くそー。こんなことで捕まってしまうのか?

<<エターナル・ジャスティス・クラッシュ♡>>

聞き覚えのある美しい掛け声と共に強力な生体エネルギーが魔法中和装置に向かって発射される。攻撃を受けた装置は二台とも破壊された。誰かが助けに来てくれたのだ。後ろを振り向くと美波と絵美が立っていた。

「パパ、もう人を傷付けるのはやめて」

美波は叫んでいた。黒ずくめの男は困惑した表情をしていた。娘に正体を知られたくなかったのかもしれない。

「絵美、あの時はごめん」

「別に気にしてないよ」

「それにしても美波と絵美が友達だなんて知らなかったよ。絵美が美波を狙っているのかと勘違いしていたよ」

「今回は麗華を囮にしてしまった。作戦だから仕方がなかったの。ごめんね」

「別に気にしていないよ」

美波のパパは娘に説得されて魔法の研究を諦めることになった。目先の脅威はなんとか取り除くことができたが油断は禁物だった。そして私たち三人はこれからも互いの絆を深め、魔法界と人間界の平和のために努力して行こうと誓ったのだった。